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コラム

2024年3月26日

第三者割当増資の留意点 ~自己株式消却、希薄化率、無議決権株式、有利発行~

【事例】

 

弊社(P社)は東京証券取引所に上場している公開会社です。定款で、発行可能株式総数(会社法37条1項参照)を400万株と定めており、現在の発行済株式総数は100万株ですが、その内の20万株は自己株式です。この度、自己株式を消却した上で、大規模な第三者割当増資を行うことになり、Q社に320万株を発行する予定です。現在、Q社はP社の株式を保有しておりません。なお、東京証券取引所の上場規程に従い、単元株式数は100に設定しています。

 



Q1.自己株式を消却するとその分発行可能株式総数も減少すると聞いたことがあるのですが、本当でしょうか?また、自己株式を消却すると一時的に発行済株式総数が発行可能株式総数の4分の1以下になるのですが、問題はありますか?


A1.自己株式を消却しても発行可能株式総数は減少しません。また、自己株式を消却することで発行済株式総数が発行可能株式総数の4分の1以下になっても問題ありません。



確かに、会社法制定前は消却された分だけ当然に発行可能株式総数が減少するとの見解がほとんどでしたが、会社法では定款変更が生じるのは明文の場合に限られています。したがって、株式の消却により発行済株式総数が減少しても、定款で定めた発行可能株式総数は影響を受けず、その分未発行枠が増加します。

また、4倍規制(会社法37条3項、113条3項)の趣旨は、既存株主の持株比率の下限を画することにあります。株式消却がなされても、既存株主は自ら持株を売却しない限り持株比率が4分の1を超えて低下することはなく、許容されると考えます。実質的に考えても、自己株式の消却+再発行は、自己株式の取得+処分と同視すべき行為といえ、自己株式の取得+処分は当然に許されますから、自己株式の消却+再発行も許されるといえます。





Q2.授権資本制度との関係で問題がないということは分かりました。それでは、このまま第三者割当増資を進めても大丈夫でしょうか?


A2.上場廃止の対象となるので計画を見直すべきです。


希薄化率(発行株式の議決権数/発行前の総議決権数)が300%を超える第三者割当ては、原則として上場廃止の対象となります(東証有価証券上場規程601条1項15号、同施行規則435条の2・60112項6号)。今回のケースですと、発行前の総議決権数が8千個ですので、2万4千個の議決権数、つまり240万株までしか発行できません。

また、希薄化率が25%を超える場合または支配株主が異動する場合には、原則として、「経営者から一定程度独立した者」から必要性・相当性についての意見を得るか、総会を通じた株主意思の確認が求められます(同規程432条、同施行規則435条の2)。今回のケースですと、20万株以上発行する場合には該当することになります。なお、「経営者から一定程度独立した者」とは、社外取締役、社外監査役または第三者委員会等を指します。





Q3.他に留意すべき点はありますか?


A3.Q社が過半数株主となる場合には、既存株主の意思を確認するための手続が必要となります。その場合、大株主に事前に話を通しておくなど、確実に過半数の賛成が得られるようにしておくのが賢明です。


公開会社において、引受人が過半数株主となるような新株発行を行う場合、持株比率10%以上の株主が新株発行に反対すると、原則として株主総会による承認決議が必要となります(会社法206条の2第4項5項)。今回のケースですと、80万と1株以上をQ社に発行する場合には該当することになります。株主総会で過半数の賛成が得られなければ、当然新株発行は行えませんし、既存株主の意思を確認する手続を怠ることは無効事由に該当します(東京地判令和3..18)。したがって、持株比率10%以上の株主の意思を事前に確認しておくべきでしょう。

なお、質問には現れていませんが、敵対的買収や支配権をめぐる内部紛争などの事情があれば、不公正発行(会社法210条1項2号)も別途問題になりますので、その点もご留意ください。





Q4.会社が目標とする資金調達額のためにも、何とか320万株を発行したいです。また、現在の議決権のほとんどは創業者一族が保有していますので、可能であれば、支配権に影響を及ぼしたくありません。何か方策はありませんでしょうか?


A4.発行する株式を完全無議決権株式とすることで、ご希望に沿う形での資金調達が可能です。


新たに発行する株式を完全無議決権株式(会社法108条1項3号)とするならば、希薄化率や支配株主の異動は問題になりませんので、通常の取締役会決議で発行可能です。もっとも、公開会社においては発行済株式総数の50%までしか議決権制限株式を発行できませんので(会社法115条)、今回のケースですと80万株が限度になります。そこで、80万株の発行で目標の資金調達額を達成するために、1株当たりの価値を普通株式の4倍にする必要があります。具体的には、発行する株式を社債型優先株式とした上で、金利や優先配当額を調整する方法(会社法108条2項1号)、もしくは普通株型優先株式とした上で、剰余金・残余財産の分配を既存株式の4倍にする旨を定款で定める方法(108条2項1号2号)が考えられます。

なお、単元株式数は種類ごとに定められるので(会社法188条3項)、議決権に制限のない株式を発行することにした上で、単元株式数を例えば1000株1単元とすれば、議決権数の増加を3千2百に抑えることが可能です(創業者一族は3分の2以上の議決権を維持することができるでしょう)。ただし、東京証券取引所の上場規程は単元株式数を100以外に設定することを原則として認めていないため、今回のケースではこの方法を採ることはできません。





5.お陰様で、目標額の資金調達をすることができたのですが、1ヶ月後に創業者一族から「今回の新株発行は有利発行に当たるにもかかわらず、株主総会の特別決議を経ていない。また、募集事項の通知が1週間前に届いた。そこで、近々新株発行無効の訴えを提起するつもりでいる。」との連絡を受けました。すぐに調査を行ったところ、確かに公正な価額よりも著しく低い金額でQ社に発行してしまったことや通知が2週間前までに届いていなかったことが発覚しました。ただ、有利発行に該当するなら株主への通知は不要なはずですし、有利発行手続の懈怠は無効事由にはならないはずです。訴訟の見通しを教えて下さい。


A5.無効事由が認められる可能性が高いです。すぐに、弁護士と対応を検討する必要があります。


確かに、条文上は有利発行の場合には通知・公告が一切不要であるように読めます(会社法201条3項1項参照)。しかし、有利発行の場合に通知・公告が原則不要とされる理由は、株主総会の場において株主に募集事項が事前に知らされ、差止めの機会が確保されることにあります。したがって、株主総会の場が設けられなかった場合には当然通知・公告をする必要があります。今回のケースですと、株主総会の特別決議・理由説明(会社法201条1項、199条2項3項、309条2項5号)を欠くという法令違反、適法な通知がなされていないという法令違反がそれぞれ認められますので、無効事由に当たると裁判所が判断する可能性が高いです。




 

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